『NETFLIXの最強人事戦略』を読んだ

最近、掲題の本が私の周囲で流行っていたので、勤め先で技術書籍の購入を担当している人に「読みたいです!」と訴えたところ、翌々日ぐらいに入荷して、私のデスクの上に置かれていた。

…で、2週間ぐらい掛けて読んだので、感想などを書く。

そもそもNETFLIXとは?

「知ってるよ!」という声がたくさん返ってきそうだが、最近は日本でもすっかり有名になった映像ストリーミング配信の大手会社だ。
既存の映画やドラマだけでなく、オリジナル作品の配信も行っている、ということも既によく知られているだろう。

だが、元々は1997年にDVD郵送レンタル会社として始まったことを知っている人は、日本では多くないのではないだろうか。
少なくとも、私は本書を読むまで知らなかった。
その後、何度かビジネスモデルを変化させ、いわゆる「イノベーションのジレンマ*1に陥ることを上手く避けながら、今日の繁栄を築いてきた企業なのだ…というのは、本書末尾の訳者あとがきの受け売りである。

NETFLIXは、いかにして「イノベーションのジレンマ」を回避し、自らを変革させ続けることができているのか。
そのヒントになるのが、同社のカルチャーであり、本書に示される人材活用の戦略である。

本書の概要(雰囲気)

この本の著者は、NETFLIXの創業メンバーであり、2012年まで人事最高責任者として務めたパティ・マッコード氏だ。
彼女は同社の企業文化を表したCulture Deckを、創業者でありCEOのリード・ヘイスティングス氏と一緒に創り上げた人物でもある。

この本は、彼女が人事戦略を通していかにNETFLIXのカルチャーを作り上げていったか、その14年間の軌跡が綴られている。
ただし、教科書のように原理原則を先に立てて示していくような書き方ではなく、14年間でどんな困難に出遭い、どう決断してどう解決してきたかという赤裸々なストーリーがいくつも展開されている。

なので、読み物としても面白く、割とさくっと読めてしまうのではないだろうか。
その上で、内容はとても刺激的だった。
確かに、著者視点で考えてみれば「なるほど」と頷けるのだが、週明け出社して会社に「このやり方を試してみましょう」と提案するのは大変な苦労を伴いそうだ。
そのぐらい、変革に満ちた内容だと言える。

気づき

たくさんあるが、全部書くとネタバレしすぎて良くなさそうなので、いくつかにしておく。

  • 従業員に自由と責任を与える
    • 例えば、同社では有給休暇制度が廃止された。従業員は好きな時に休めるし、人事は休暇を管理しなくていい。ほとんどの従業員は適切な範囲で休みを取るという。
  • 徹底的に正直になる。経営者が率先して見本となる
  • オープンなフィードバックシステム。「ストップ、スタート、コンティニュー」……止めてほしいこと、新たに始めてほしいこと、続けてほしいことをフィードバックする。同社では後にいつでも誰にでも 記名して フィードバックを送れるようなシステムが出来たという。
  • スポーツチームの運営をしているような感じ。だからトップ選手だけを起用するし、メンバーを頻繁に入れ替える。
  • 従業員特典が素晴らしい仕事をさせるわけではない
  • 前向きな解雇はその人にとってもより良い未来を切り拓く*2
  • 人事考課制度の廃止
  • 給与制度と人事考課の分離

「人事考課制度の廃止」などと言うと、もう企業の人事担当者やマネージャーは拒絶反応を起こすのではないだろうか。
しかし、「膨大な時間とコストを掛けている」にもかかわらず、企業にとって「重要な経営指標の改善につながっている」と言えるだろうか? 本書では、「そうでないなら、段階的にでも廃止していった方がいい」と示唆している。実際に、「アクセンチュア、デロイト、GEといった名だたる優良企業が」従来の人事考課制度を廃止し、「新しいやり方を導入している」らしい。
少なくとも、やり方の見直しは考えた方がいいかもしれない、と思った。

また、給与制度を人事考課と分離する、というアイディアは、最近知ったサイボウズ社の人事・給与制度にも通じるものがあった。

給与は能力に応じて支払えば良いし、それとは別に仕事についてのフィードバックは随時行えばいい、というのはとても理に適っているように感じた。

まとめ

以上、『NETFLIXの最強人事戦略』を読んだ感想や気づきを書いた。

本書には、最近組織について考えていた課題や、ふだんのチーム運営において参考にできるヒントがたくさんあったように思う。
もう少し消化して自分なりに整理しておきたい。
特に解雇については、米国と雇用制度の違いもあるし、愚直に真似できるものではない。

ひとまず、会社の書庫から借りて読んだが、この本も自分で買うことになりそうだ。

参考

*1:イノベーションのジレンマ - Wikipedia

*2:本稿の内容からはやや脱線するが、『君たちに明日はない(新潮文庫)』という小説を思いだした。