『BEATLESS』というSF小説を読んだ

BEATLESS』とは

長谷敏司氏が著したSF小説である。月刊ニュータイプで2011〜2012年に連載されていた。
2018年1月にアニメ化されるそうだ。私が本作を知ったのは、アニメ化の情報がTwitterに流れて来たことがきっかけだった。

直後にAmazonKindle版をポチって、その後1~2週間ぐらい掛けてゆっくり読んだ。

私見により内容をざっくり紹介

舞台は西暦2105年の日本・東京。

本作は、SF2大テーマと云ってもいいであろう以下の2つの題材を扱っている:

  • 人間と「知性」を持った機械の間の恋愛
  • 人間を越える人工知能(あるいは、ポスト・シンギュラリティ)

そういう意味では古典的とも云えるかもしれないが、2010年代(=現在)から想像するポスト・シンギュラリティ世界の作り込みは真に迫るものがあると感じた。
特に、「シンギュラリティ以降、人類は人間を越える能力のAI(作中では《超高度AI》と称される)を無闇に増やさず、ネットワークから切り離して運用している」というのは、「スカイネットターミネーターのアレ)」を恐れる現世代の私たち人類からすると妥当な設定だ。

もう一つ特徴を挙げると、ヒロインである人型ロボットの「レイシア」が、服飾文化であるところのファッションを通して人々に影響を与えていくという場面がある。
全体的に見るとバトルシーンの方がかなり多いのだけど、ファッションというのが本作が発信しているメッセージの重要な比喩になっている。

キャラクターは少年少女が中心で、物語の鍵を握る5体の「hIE」(人型ロボット)は全て少女型。
…と来れば、雰囲気がラノベっぽいというのは想像に難くないのではないか。
たぶん、「SFラノベ」と位置づけても間違いでないと思う。

10/31追記

後半でところどころ出てくる、人間や経済というシステムに関する考え方も面白いなと思った。

  • 「人間というオープンシステム」……コンピュータ用語から来た語だろう。「オープンシステム」は厳密には言葉の誤用だと思うけど、「巷に流通する色んなインタフェースを使いこなす汎用の生体システム」ぐらいの意味か。文脈からすると、「それゆえにハックしやすい」というニュアンスも込めているのかもしれない。
  • 「経済活動というものは、暗号化していない無防備な情報を、ウイルス対策もせずにネットワークに流し続けるもの」……この言葉の妥当性については経済学者の評価を聞いてみたいところ。

感想

ストーリーはちょっと物足りない感じもあったけど、上述のように世界観や特徴あるシーンが有って面白かったので、読んで良かったかなーと思っている。

もう一つ、「なるほど」と思ったエピソードがあって、中盤の環境実験都市の回ではロボットをあんな風に使うのか、というのは面白かった。(※ネタバレに配慮して、ボカして書いています。)

冒頭に書いたようにアニメ化が決まっているけど、文章ではイマイチ絵が脳内に描けないところもあったので、どう映像化されるかも気になるところ。

余談

BEATLESS』の世界観や諸設定は、作者の長谷敏司氏が下のサイトで誰でも使えるオープンリソースとして公開している。

このリソースは長谷氏自身の他の著作でも使われているようだ。

SF作品の設定を科学的に考証しつつ精緻に作り込むのはたぶんとても大変なので、こういったリソースはきっと他の創作者の役に立つだろう。